「マルメロの陽光」の日々

この時期になると、エリセ監督映画「マルメロの陽光」を無性に観たくなる。
 作業の合間にDVDをつけ、時より画家ロペスの会話を耳にしてディスプレイを覗く。
絵画を完成するのが目的では無く、ただ好きなマルメロに当たる陽の光を見、黙々とキャンバスにむかって描く、画家ロペスの日常の豊かな時間の経過を丁寧に写しだしている。
 或る作家が「現代人は目的の為だけに生きて、途中のプロセスを無視むしろ無意味なものと捉える時代になっている」と嘆いていた。
端的に言えば、目的を実現した時はじめて生の意味があると考えるなら、途中のプロセスでは、我々は死んでいることになる。
 画家ロペスが自分でアトリエを掃除し、黙々とキャンバスを木枠に張り、マルメロの前でイーゼルを立て、綿密に立ち位置を決め、さらには対象のマルメロやレンガの壁や葉っぱにも白で目印をつける。この行為は絵を完成させるだけであったら、すっ飛ばしても良い面倒くさい行為だが、ロペスは楽しんで作業を続けている。結果ロペス自身が言うように、絵画を完成するのが目的ではない。その制作準備からマルメロのそばで絵を描く行為と流れる時間の中に存在するのが嬉しくてしょうがない。

 「マルメロの陽光」は、「時間とは、輝かし、いききとした、色彩豊かな流れである」と我々現代人に問いかけているようだ。

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